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2020.8.1
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北山・盗人峠、西山・松尾山で遭遇した京都の山の怪

今年も8月10日の『山の日』が近づいていた。トレイルやハイキングの仕事で山を歩くと、街歩きでは出合えない「不思議」や「恐怖」に遭遇することがある。

東山・北山・西山と三方を山に囲まれ山紫水明の京都。山は古くから信仰の対象となり、地元の人に親しまれてきた。重装備の要らない、比較的なだらかな山がほとんどだ。それでも、これまでツキノワグマとニアミスしたり、足もとにクネる蛇にぎょっとしたり、ヤマビルに吸われて足が血だらけになったり、目の前に動物の骨が落ちていたりした。

山で見つけた熊に注意の標識

北山に「盗人谷」という名の峠がある。その名の由来は、昔、この辺りに盗賊が隠れ住んでいて、夜な夜な都に下りて盗みをしたからとも聞く。峠を歩いていた時のこと、昨年の台風で山は荒れていた。


北山の盗人谷へ向かう

他にハイカーも見当たらず、昼前だというのに、辺りは木立に遮られて薄暗い。枝を踏む自分の足音しかしない。すると、 

きききき、きききききぃ、きぃきぃきぃきぃぃぃ……。

しん、とした静寂のなかを裂いて、鳥の鳴くような声が頭上から降ってきた。立ち止まって、辺りをうかがうと、鳴き声もやんだ。樹間に目をこらしても鳥の影もなければ、羽音も聞こえない。また歩き出すと、ききききき、きぃきぃきぃ、と聞こえてくる。しかも、歩く速度に合わせるように声が付いてくる。立ち止まると、鳴き声も、やむ。また、歩き出す。声も少し後ろを同じ速度で追ってきた。

山に棲む妖怪だろうかと思ったが、どうやら、風が吹いて樹木の枝葉がこすれ合って出す音のようだった。枝葉がこすれる度、きききききと鳥のような、まるで天狗(こんな声で鳴くのかは知らない)かと思うような声を出す。正体がわかって、ホッとした。けれども自分が歩みをとめると、風もやみ、歩き出すとまた風が吹いて枝葉がこすれ合ったのか、そこは、いまだ謎のままだ。

 

もうひとつ、別の日に取材で「松尾山」を歩き終えた時のこと。暑くて、疲れもあり、もう帰路につくことだけで頭いっぱい。急ぎ足で苔寺の方へ歩みを進めていた。

ふと、チリーン、と澄んだ音色が聞こえた。もう一度、チリーン、と鳴る。振り返って、音のした方へ戻ってみると、「山の神さん」と刻まれ、しめ縄のはられた岩が祀られていた。駒札によると、昔、この辺りに山の神神社があったようだ。

地元の人は山に入る時、この岩に仕事の安全と山の恵みに感謝した、とある。今でも山に入るすべての人を守護しているという「山の神さん」に、「ケガなく、無事に歩き終えることができました」と報告かたがた手を合わせ、松尾山を後にした。


山の神さん

それにしても、チリーンという音が聞こえてこなければ、山の神様を素通りした失礼な人間になってしまっていただろう。あの音は何だったのだろう? 仏具のりんの響きに似ていたのだが。

以前、山で進むべき道が消え、迷った体験を書いた。京都の山は低山とはいえ、あなどれない。千年以上も修行僧や修験者、村人が行き来してきた山である。これからも山にお邪魔する時は出合った不思議を楽しみつつ、敬意を払って歩きたい。


松尾山頂からの眺望。こういう景色も山歩きの魅力

京都の摩訶異探訪とは

京都の街のどこでも存在する伝承。それは単なる絵空事ではなく、この現代にも密やかに息づき、常に人々と共存し続けている。1200年余りの歳月をかけて生み出された、「摩訶」不思議な京都の「異」世界を、月刊誌Leafで以前「京都の魔界探訪」の連載をしていたオフィス・TOのふたりが実際にその地を訪れながら紐解いていく。。

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