
京都駅に“おだしの劇場”が誕生[京都離宮 ~おだし...
(写真左から)漫画家・武田一義さん、京都精華大学教授・吉村和真さん
太平洋戦争中の「ペリリュー島の戦い」を描いた漫画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が劇場アニメ化される。原作は日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田一義さんの人気作だ。戦況が悪化した昭和19年、極限状態の南国で若い兵士たちが飢えや渇き、伝染病と闘いながら生き抜こうとする姿をリアルに描く。1万人中生存者34名という苛烈な戦場で、家族や故郷を想って戦う兵士たちの友情と葛藤が胸に迫る。主人公・田丸役を板垣李光人さん、相棒・吉敷(ヨシキ)役を中村倫也さんが熱演した。
全国公開に先駆け、[T・ジョイ京都]で『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』のティーチイン試写会を実施。この企画のきっかけは、同作を取り上げた『マンガと戦争展2』を開催していた[京都国際マンガミュージアム]からの声がけだった。当日は原作者で共同脚本の武田さんと、『マンガと戦争展2』監修者の吉村和真さん(京都精華大学教授)が登壇し、作品の創作背景やキャラクターデザインの舞台裏が語られ、観客は作品世界をより深く味わう貴重な時間となった。
これまで『さよならタマちゃん』『おやこっこ』といった自身の境遇を描く漫画を発表してきた武田さんに、吉村さんが戦争マンガという新たなジャンルに挑んだ理由を尋ねると、戦争体験のない世代として「そもそも自分が描いていいのか」という葛藤を抱えていたが、水木しげるさんの『総員玉砕せよ』をはじめ、戦争を直接経験した漫画家の作品や、こうの史代さんの『この世界の片隅に』、おざわゆきさんの作品など、戦後世代や女性作家が描いた戦争作品を読み込み、脈々と描き続けてきた方々の存在に「背中を押された」と答えた。
今回、武田さんが大きく踏み切った表現が、三頭身の可愛いキャラクターで苛烈な戦場を描くという挑戦。吉村さんが「勇気の要る選択では」と問うと、武田さんは「『さよならタマちゃん』で培った方法論が根底にあった」と明かす。辛い現実を描きながらも、柔らかなキャラ造形が読者の心をほぐし、物語を受け止めやすくする。その効果をすでに体感していたからだ。
中でも、主人公である漫画家志望の田丸一等兵の目を細めたままの表情は、作品全体の印象を形づくる重要なデザインとなった。武田さんは、携帯電話などで使われる「顔文字の延長として自然に生まれた表現だった」と振り返る。感情を過剰に描かず、読者の感情を投影できる余白を残す。その抑制が、過酷な戦場を見続ける田丸には最適だったという。一方、吉敷上等兵は少年漫画的な大きな目を持つキャラクターとして対照的に描かれ、彼が直面する過酷な現実がより強調される構図になっている。
キャラクター造形の苦労について話題が及ぶと、武田さんは「三頭身での描き分けは本当に大変だった」と苦笑い。軍服で統一される中、顔だけでキャラを区別しなければならず、モブキャラ(その他大勢のキャラクター)を作らないという方針も難易度を上げた。しかしその中で、あえてモブキャラのような“よくある顔”にした小山一等兵の存在が「これは誰にでも起きうること」と、改めて身近に感じられたと言う。また「愛着があるキャラ」については、「全員好き」だが、想定外として重要になったキャラクターに高木二等兵をあげた。「役に立たない、どちらかというと邪魔になる存在だが、もしかして自分が本当に戦場にいたら高木かもしれない」と自分と高木が被り、「このキャラをちゃんと描かなきゃいけないと思った」と語る。
また、映画で田丸の声優を務めた板垣李光人さんについては、武田さんが熱望したものの「予想を超える演じ方がいくつもあった」と感激。吉敷役の中村倫也さんは「かっこいい人が演じるとかっこよくなると思っていたが、打ち合わせしていなかった吉敷の背景にある“田舎の頼りがいのあるお兄さん”が、中村さんの声の中に自然と見え隠れしていた」と驚いたことを明かした。
原作のマンガは本編11巻と外伝4巻の全15巻。膨大な資料を読み込み、当事者の証言を追い続けた武田さんは、「特に外伝は時間がかかり、1年に1冊しか描けなかった」と振り返る。一つひとつの命に向き合い、記憶を丁寧に掘り起こしてきたからこそ、ページの奥に確かにそこにあった日常が息づいている。
悲惨な戦時中をあえて可愛いキャラクターに託したが、戦争を知らない今を生きる私たちが、その時代に生きた若者たちの息遣いを感じ、次の世代へと想いを手渡していくための入口となる作品だ。戦後80年。この物語が語りかけてくるものを映画館で受け取って欲しい。
©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会
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